応接室に通された吉沢香純は、部屋のなかを見渡した。
簡素な応接セットと、壁際に置かれた書棚のほかはなにもない。書棚には法律関係の書籍が並んでいた。
「寒くありませんか。今日は冷えますから」
案内してくれた女性の職員が、香純に訊ねる。
香純は首を横に振った。
「大丈夫です」
本当は少し寒かったが、厚かましいことは言えない。
三月に入り、関東は暖かい日が続いていたが、今日は朝から冷え込んでいた。
「いま、担当の者を呼びますので、ここでお待ちください」
そう言い残し、女性の職員が部屋を出ていく。
ひとりになった香純は、窓のそばに立ち外を眺めた。
広い敷地を挟んだ向こう側に、大きな建物が見える。収容者たちが暮らしている居室棟だ。黒ずんで見えるのは、曇り空のせいだけではない。居室棟の窓側に、すべて鉄格子がつけられているからだ。
香純は東京拘置所を訪れていた。
死刑囚──三原響子の遺骨と遺品を受け取るためだ。
拘置所の敷地は、大きくふたつに分かれている。
塀のなかと外だ。
なかには収容者がいる居室棟、外には所長や職員たちがいる庁舎がある。いま香純がいるところは、接客室がある庁舎だった。
重い空を眺めていると、ドアがノックされた。
男がひとり、入ってきた。紺色の制服を着ている。いま三十二歳の香純と、そうかわらない年齢に見える。
「吉沢香純さんですか。三原響子さんの身元引受人の──」
香純は男に向かって、姿勢を正した。深くお辞儀をする。
男は刑務官の小林と名乗った。
小林は台車で運んできた荷物を、部屋に運び込んだ。
白い布に包まれた箱のようなものと、小振りの段ボールをふたつ、応接セットのテーブルに置く。
小林は香純にソファを勧めた。香純が腰を下ろすと、自分もテーブルを挟んだ向かいのソファに座った。
小林が言う。
「こちらがお引き取りいただくものです。ご確認いただけますか」
小林は白い布に手を伸ばし、結び目を解いた。
なかにあった木箱から、白い壺を取り出す。
「三原さんの遺骨です」
骨壺は、香純が想像していたより小さかった。テレビでは大柄に見えたが、実際は小柄だったのかもしれない。
「こちらが遺品です」
小林は脇に置いていたファイルケースから、書類を取り出した。遺留品目録とある。
「三原さんが所持していたもののリストです。段ボールの中身と照らし合わせて、間違いないようなら確認用の書類に署名をお願いします」
響子の遺留品は、肌着や洗面道具といった日用品と、本とノート、手紙だった。