「伊藤さんに声をかけられた時、思ったの。私も、入れるかもしれないって。みんなと同じ、ゴルディロックスゾーンに」
伊藤さんが、ぽかんとした顔で私の言葉を繰り返した。と言っても一度聞いただけでは覚えきれず、「ゴル・・・・・・? え、何」と首を傾げている。そうだ、あの時テレビに映っていた案内役の老人は、こんなことを言っていた。
『宇宙において生命の誕生と生存の維持に適した領域のことを、ゴルディロックスゾーン、と呼びます』
ゴルディロックスゾーン。恒星から近すぎも遠すぎもせず、暑すぎもしなければ寒すぎもしない、つまり ”ほどほどの、ちょうどいい場所”。そういう環境のことを、ゴルディロックスゾーン、あるいは生存可能領域と呼ぶことがあるらしい。逆にその領域を外れれば、生き物は存在することすらできない。それを聞いた伊藤さんが、一瞬何かを言いたそうな顔で私を見て、すぐに目を伏せた。
私は教室の隅で自分の居場所をーー自分だけのゴルディロックスゾーンを探していて。伊藤さんにグループに誘われた時、やっとそれを見つけた気がした。
「でも、無理だった」