香港少年燃ゆ
西谷 格

激動の香港社会を見つめたルポルタージュ!

報道からこぼれ落ちる、香港少年の未来ー

激動の街を生きる15歳と歩んだ3年の記録



香港デモの現場で著者が出会った15歳の少年・ハオロン。
過激なデモに参加し、母親とは不仲の少年は、普段は釣りをするだけの怠惰な日々を過ごしていた。


普通の少年に見える彼は、なぜ過激なデモへの参加も厭わないのか。少年とともに行動して見えた、報道からこぼれ落ちる香港の姿と、少年の未来とは。

2019年の民主化デモから、2020年の国家安全維持法を経て、少年の目線を通して激動の香港社会を見つめたルポルタージュ。

***星野博美さん、激賞!***

正義とズルさと嘘が入りまじった愛すべき少年は、
寛容さを失った街でどこへゆく?
(ノンフィクション作家、『転がる香港に苔は生えない』著者)

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序章より

 時刻は午前10時過ぎ。初秋を迎えた香港の空気は暑気が和らいでおり、エアコンなしでも心地よい。出来上がったばかりの簡素な朝食を手渡すと、少年は無言で受け取り、ベッドの上であぐらをかいて口に運んだ。やがて食事を終えるとごろりと寝転び、スマホを両手で横向きに握りしめスロットゲームの世界に没入した。画面上では極彩色の何かよく分からないものが慌ただしく明滅を繰り返している。「相手が女だからって手加減しない」と言ってデモ現場で暴れていた姿とは、まったく別人のようだ。
 とにかくシャワーを浴びたい。私は彼を追いかけながら先の見えない世界をずっと彷徨っていたせいか、疲労感が抜けないのだ。太ももには変なじんましんができていたし、部屋の鏡を覗き込むと、左まぶたがうっすら腫れて人相が変わっていた。右のこめかみには、いつの間にか白髪まで生えていた。白髪は老化現象としても、じんましんやまぶたの腫れは、催涙ガスの影響じゃないかと勘繰ってしまう。昨夜、少年と一緒に自撮り写真を撮った時には、自分はこんな顔ではなかったはずと驚いてしまった。
 パジャマを脱いで下着姿で洗面所へ向かうと、少年はこちらの動きを敏感に察知し、突然スマホのカメラレンズを向けてきた。何をするつもりだ。
「ねえ、写真撮っていい? 日本人記者のパンツは赤でしたって、インスタにあげちゃおうかな」
「やめろやめろ、写真撮るな!」
 この年頃の人間は怖いもの知らずだから、本当にやりかねない。何の因果で、自分の下着姿を香港からインターネット空間に晒さねばならんのだ。逃げるように画角の外へ身をよじると、15歳は満足そうにケラケラと笑い、またスマホの世界へ帰っていった。

香港少年燃ゆ レビュー

60代 男性

私は1997年から2001年迄香港で返還を見、2014年から2017年まで上海、2018年から2021年1月まで香港に滞在していました。中華圏約11年滞在経験ですが、日本から近い割に、非常に異なる価値観、考え方を持った、中国、香港そして外国の人々と触れ合い、人を見る、観察する様になり、本書も興味深く、そして著者とも話をしたくなりました。

著者プロフィール

西谷 格 にしたに・ただす

1981年、神奈川県生まれ。ライター。早稲田大学社会科学部卒。地方紙『新潟日報』の記者を経て、フリーランスとして活動。2009年に上海に移住、2015年まで現地から中国の現状をレポートした。主な著書に『ルポ 中国「潜入バイト」日記』(小学館新書)、『ルポ デジタルチャイナ体験記』(PHPビジネス新書)などがある。

香港少年燃ゆ

定価 :1980円
頁数 :322ページ
発売日:2022年12月1日
Illustration : Onion Peterman

西谷 格 作品

ルポ 中国「潜入バイト」日記

中国人のリアルを描いたチャイナ潜入ルポ!

働く現場で見たリアルな姿を描いたチャイナ潜入ルポ!

小学館ノンフィクション大賞で審査員一同を爆笑の渦に巻き込んだ異色の最終候補作が書籍化。

ジャーナリストの著者が日本人が知らない中国人の現場に潜入。上海の寿司屋の店員、反日ドラマの俳優、パクリ遊園地の踊り子、婚活パーティの参加者、富裕層向けのホスト、日本ツアーのガイドなどを自ら体験。そこで出会った中国人との奇妙な交流と職業体験から感じた中国人のリアルな生態を描いた、全く新しいルポルタージュ。