@shogakukanbungei 文房具店で働く人は、 なぜ、なぜみんな優しいのだろう。 #上田健次『#銀座「四宝堂」文房具店』 いつまでも涙が止まらない、感動の物語。 シリーズ最新第5巻、絶賛発売中! #本の紹介 #読書 #小説 #文房具 ♬ オリジナル楽曲 - 小学館文芸
時々「四宝堂の店主・宝田硯のモデルは誰ですか?」という質問をいただきます。最初に答えてしまうと、そのものズバリのモデルはいません。けれど、影響を受けているであろうキャラクターはいます。それはエルキュール・ポアロです。
アガサ・クリスティーのポアロシリーズはたびたび映像化されており、その中でもデヴィッド・スーシェがポアロを演じ、熊倉一雄が吹き替えを担当したテレビドラマが私は好きです。同作品は何度も放送されていますが、私が見ていたのはNHKがBSで土曜の夕方に流していたものです。
私は、会社勤めをしている兼ね合いで、平日は執筆に時間を割くことができません。代わりに休日は、大した趣味もないとあって許される限り執筆に時間を注ぎ込んでいます。だいたい朝の5時頃からパソコンの前に座っているので夕方には目がしょぼしょぼし、諦めてポアロを見るといった流れが土曜日のお決まりになっていました。
ポアロについてこの場で多くを語る必要はないでしょうが、神経質なまでに几帳面で、常に身だしなみに細心の注意を払い、どんな時も余裕たっぷりで慇懃な態度を崩さず、独特のユーモアで相手の懐にすっと入り込み、時々ハッとするような言葉を発するなど、非常に魅力的な主人公であることは論を俟ちません。テレビの画面越しとはいえ、毎週彼に会い続けているうちに影響を受けなかったと言えば嘘になるでしょう。
同作品は、ヘイスティングズやミス・レモン、ジャップ警部にオリヴァ夫人など、脇を固めるキャラクターも素晴らしく、その影響は「良子」をはじめとする「四宝堂」の登場人物たちにも何らかの形で投影されているように思います。
ちなみに私が見ていた時間帯での放送はすでに終了し、後番組は「刑事コロンボ」でした。もしも、「四宝堂」のプロット創りや草稿執筆時にポアロでなくコロンボを見ていたら、硯の人となりは変わっていたかもしれません。
――上田健次(著者)
モンブランさんの万年筆から、コクヨさんのキャンパスノートまで。本作には思い出の文房具として、実在の文房具が多数登場します。読後、面白いと感じていただけましたら、ぜひ、皆さまの思い出やお気に入りの文房具を使い、本作の感想を書いていただければ、これほど嬉しいことはありません。
え? 感想文を書くなんてハードルが高い? そんな時は作中に登場する「四宝堂」店主・宝田硯のこんなセリフを思い出してみてください。
「まずは頭に浮かんだ言葉や文字をどんどん書き出すことをお勧めします。文章としての組み立ては、その後に考えれば良いかと。ああっ、間違ったとか、違うなと思った箇所は一本線で消すと良いですよ。あとで『やっぱり、あれ、使いたいな』と思った時に、読み返すことができるようにしておくことが大切です。ノートは御本人以外が目にすることはありませんから、丁寧に書く必要はないと思います。とにかく、頭に浮かんだ言葉をどんどん書き出す。それが大切です」
いかがでしょうか、これなら書ける気がしませんか? 効果は抜群だと思いますよ。何をかくそう、紹介文の〆切をとっくにすぎ、何を書こうか、うんうん唸っていた私が今、おかげで執筆を終えようとしているのですから。
写真:皆木 優子